第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「…アレンくん…」
そっと唇を離せば、椛が微かな吐息を零した。
憂いを纏ったような、なんだか聞いてるだけで首の後ろがぞくりとくるような。
「あの…」
「しー」
続こうとした言葉がなんなのか、なんとなくわかったから人差し指で止めた。
どちらかと言えば、椛はリナリーよりミランダさんに似ていると思う。
ふんわりとした雰囲気を纏っていて、穏やかで優しい。
だけどミランダさんとは決定的に違う所が、その素直さ。
謙虚だけれど、伝えたい思いはちゃんと形にしてくれる。
さらりと、なんでもないことのように。
そこはきっと、南さんや雪さんよりも上手で凄い長所なんじゃないかなぁと思う。
「その先は僕に言わせて下さい。男の面子、立てたいから」
女の子である椛に、あんなこと言わせただけでも面目丸潰れなのに。
これ以上は椛に頼っていられない。
男を立たせたいと言えば、椛はきょとんと丸くした目を細めて笑った。
「ふふ。アレンくんらしい」
そう、かな。
…確かに椛の前では背伸び、沢山してたけど。
でもこれは本当に譲れない所だから。
「椛」
ころころと鈴を転がしたように笑う椛も可愛かったけど、もっと見てみたい姿ができてしまったから。
当てていた人差し指で優しく、柔らかい椛の唇をなぞった。
「聖なる夜に、椛を───」
言い直しとばかりに今朝告げた時と同じ言葉を紡ごうとして、ふと声が詰まる。
「………」
「…アレンくん?」
…違う、そんな言葉じゃなくて。
椛のように、もっと素直になろう。
「椛が好きです」
「え?」
「ラビと仲良くしてる所を見るだけで悶々とするし、神田の目にも余り映させたくないと思う。他の男に触れられたくないと思うくらい、僕は椛が大好きです」
「ぅ…うん…」
出てくる本音は、飾った時の言葉と比にならないくらい幼稚で無様だ。
それでも椛は否定なんかしなかった。
寧ろその頬は、じんわりと赤く色付いているようにも見えて。
可愛い。