第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「だって、私の方が先にアレンくんを好きになって…」
先とか後とか、あまりそういうこと重要視していないけど…一つ、挙げるなら。
「ううん。ずっと見てたよ、椛のこと。だからまさか椛から想いを告げられるなんて、あの時は天地が引っくり返るのかと思うくらい驚いた」
それは真実だ。
嘘じゃない。
「凄く嬉しかった。エクソシストという建前だって飛び越えて、僕を求めてくれた椛が。僕も欲しくなった。椛の、全部が。…だから僕は、椛に対して本当は欲塗れな人間なんです」
それでも手を出せなかったのは、変に幻滅させたくなかったから。
もしも椛に嫌われたらって臆病な気持ちと、ずっと大切にしていたいって想う気持ちと。
その二つに挟まれて、気付けば椛の前では理想的な恋人で在ろうとするのが当たり前になった。
「ごめんなさい…格好悪くて」
搾り出した弱音に、椛の返答はなかった。
呆れ…られたかな。
教団のエクソシストになって元帥と肩を並べるだけの実力を身に付けても、中を開けば僕はちっぽけなただの男だ。
…いや、男と呼ぶのも難しいかもしれない。
早く大人になりたい。
そうすれば、もっと余裕を持って椛と向き合えるかもしれないのに。
「…ごめん…」
弱々しい謝罪を今一度告げれば、微動だにしなかった椛の手が、そっと僕の背中に触れた。
「…アレンくん…顔、見せて」
「…今、は…情けない顔してるから…」
「ちゃんと見たいの。今のアレンくんの顔。…見せて?」
やんわりと促されて、仕方なく腕の力を緩める。
僅かに距離を取って見えた椛の顔が、なんだか直視できなくて。
目線を逸らせば、両頬に体温。
温かい椛の両手が、僕の顔を包み込んでいた。
「………」
じっと覗き込むようにして見てくる二つの眼に、自然と視線が惹き寄せられる。
鼓動の高鳴りは、椛への想いか、その無言の言葉みたいなものへの緊張か。
どれくらいそうしてたのか、僕には長い時間に思えた。
そこに終止符を打ったのは───
「うん、やっぱり」
椛自身だった。
……やっぱり?