第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「なら初めて出会った日のこと、憶えてますか?」
「それ、は…教団に初めて訪れたアレンくんを、リナちゃんが案内していた時に…」
そう。
黒の教団に入団したあの時、リナリーに案内されて全ての施設の見学に回っていた。
その途中立ち寄った食堂で、僕は椛を見つけたんだ。
食後のスイーツケーキを頬張ってた椛の姿が、余りにも美味しそうに食べてるから僕も食べたくなって、ついつい凝視してしまって。
リナリーに呼ばれて気付いた椛は、少し恥ずかしそうにケーキを隅にやりながら笑っていた。
目が合って、僕の白髪に目を止めて。
それから、くれたのは柔らかい笑顔。
"初めまして、椛って言います。えっと…アレンくん?…綺麗な眼の色、してるね"
目立つ白髪でもない。
禍々しく残る左眼のペンタクルでもない。
なんでもないことのように、僕の眼が綺麗だと褒めてくれた。
初対面でそんなことを言う人は、椛が初めてだった。
───あの時からだ。
「一目惚れだったんです」
僕の椛に対する想いが生まれたのは。
「一目…惚れ…?」
「うん」
「…嘘、だぁ…」
「ううん。嘘じゃない」
最初はこれが恋心だって、気付かなかったんだけどね。
リナリーみたいな綺麗な女の子は、傍にいるとついつい見惚れてしまうけど。
椛はそういうものとは、少し違った。
いてもいなくても、その姿を捜してしまう。
ついつい、目で追ってしまう。
まるで僕の記憶に、一瞬たりとも逃さず椛の姿を刻み付けようとするかのように。
心で追って、欲してた。
最初は、初対面で珍しいことを言ってくれたからだと思ってた。
でもそれは、すぐに違うんだって気付いた。
あの一瞬で心を奪われたのは、眼の色を褒められたからじゃない。
その椛の瞳に、僕を映してもらったからだ。
痛いくらいに強い意志じゃなくて、椛の纏う雰囲気はいつも柔らかくて、温かい。
なのに曲げずにしっかりと自分を持ってる。
押し付けると言うより、寄り添って心を交わしてくれる。
そんな、不思議な魅力を持った女の子。