第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「僕は優しさで椛と付き合ったりなんか、していないから」
なんて声を掛ければいいのか、まだよくわからなかったけど。
自分が主張すべきことはわかる。
「それだけは信じて」
腕の中に閉じ込めた椛の顔を、恐る恐る伺う。
その涙に触れてもいいのか、それさえも戸惑ってしまって手は伸ばせなかった。
後から後から大粒の涙を零しながら、椛は力なく首を横に振るばかり。
「信じて、たも…っずっと…でも、わからな…っ」
「っ…」
涙ながらの椛の弱々しい主張が、心を抉るようだった。
でも、駄目だ。
ここで引き下がったら。
「僕が椛の言葉を聞いてないって言うなら…ちゃんと聞く。全部聞くから。だから、椛も僕の言葉を聞いて下さい…っ」
「っ…聞いてた、も…っでも、アレンくん…全然話してくれな…っ」
「ち、ちゃんと話しますから…っだからそんなに首振らないでっ」
「アレンくんがっ不安な態度ばっかり…取る、から、でしょぉ…っ」
全くその通りです!
「ぅ…ごめん…」
言い返す言葉がない。
椛は僕に想いを告げてくれた時から、ずっと色んな形にして心を伝えてきてくれてたんだから。
最後の一歩を踏み出せずにいたのは、ずっと僕の方だ。
囲っていただけの腕を、その柔らかい肌に密着させる。
いつも触れる時は、殊更気を付けて慎重に扱っていた椛の体。
僕より弱くて、柔らかくて、甘い匂いがして、安心と……そして、淫らな欲を持たせるもの。
だから尚の事気を張って触れていた。
壊さないように、慎重に。
「アレンくん…?」
ずっと奥底に溜め込んでいた感情を吐き出そうとすれば、同じに体に力が入る。
そのまま目の前の体を掻き抱いた。
どこか甘さを感じる匂いを名一杯吸い込んで、椛の髪に顔を埋める。
…嗚呼、
「本当の僕は、椛が思っているよりずっと浅ましい人間です」
この身体が欲しい。
そう思ったのは一度や二度じゃない。
椛が思っているよりも、ずっと欲に塗れた想いを抱いてる。
それが僕だ。