第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
✣
どうしよう。
「っ…ふ、ぇ…」
椛が泣いてる。
「ひっん…っ」
時偶見せてくることがあった、可愛らしい泣き顔じゃない。
大粒の涙をぼろぼろと零して、小さな嗚咽を立てている。
たくさん、泣いてる。
椛が。
…泣き止ませないと。
その涙を止めてあげないと。
なのに、なんでだろう。
椛の涙の止め方が、わからない。
「…っ」
今までそんなこと何度もやってきたじゃないか。
頭を撫でて、涙を拭って、優しく声を掛けて───
"その優しさは───…痛いよ…"
椛に触れようとした手が止まる。
唯一繋がっている右手が嫌な汗を掻いた。
振り返れば、僕は椛に対して理想の恋人で在ろうとすることが多くて。
だから、いつもそんな自分で接してた。
…だから、その優しさが痛いと言われた今。
どう椛と向き合えばいいのか、戸惑ってしまう。
仮面なんて被ってたつもりはない。
でも椛にとって僕は───
「ガァッ!」
「っ痛…ッ?」
べし、と強めに頬に当たる大きな黄色い尾っぽの先。
見ればティムが、獣ののように球体を逆立てて威嚇していた。
「シャアアア!」
僕に向かって。
怒りMAXだな。
わかってる、ティムの言いたいことは。
でも今の僕じゃどうすればいいのかわからなくて…
「ガァウガウッ!」
だからそれはわかってるって。
それでも…
「ギャウギャウ!」
あーもう!
わかったよ!
「っ…椛」
一人でうだうだ考えていたって解決策は出ない。
ティムの激怒に半分押されて、残りの半分は今更になって怯える自分に自分で喝を入れて。
そうして目の前の椛に手を伸ばした。
今一番重要なのは、椛が傷付いているってことだ。
傷付いて泣いてる。
「泣かないで…椛」
恐る恐る手を伸ばす。
体を縮ませて小さな嗚咽を漏らす椛を、ゆっくりと自分の腕の中に閉じ込めた。
「ごめ、ん」
自分でも呆れるくらいに、ぎこちなく。
「ごめん、椛」
それでも、これしかやれることが思い付かなかったんだ。