第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「それに、強くなんかない。僕が強ければ、さっきだってティキ達に譲られなくても椛を助け出せていた」
「それは…」
「少しつつかれるだけで周りが見えなくなる。ティキに言われたこと全部図星で、何も言い返せなくて…苛立って。結果として椛を怖がらせた」
あ…。
あの時の、ことだ。
普段聞いたことのない、低い声でノアを威嚇していたアレンくん。
その左眼は歪に肥大したペンタクルを肌に這わせ、真っ暗な眼球は血のように赤い眼孔を浮かび上がらせていた。
いつもより殺気の強い、いつもとは違うアレンくんの姿に畏縮してしまった…私の態度に、気付いてたんだ。
「椛が理想としている、椛の好きな僕の像と、僕自身は違う。だからせめて、そうあろうとしたいんです。……本当は、今すぐにでも椛の体が欲しい」
「…ぇ…」
ドキリとした。
今、私の体が欲しいって…そう、言ったの?
「でも、椛の都合も何も考えていない自分勝手なそんな欲…向けられない」
私の手を握り締めていたアレンくんの力が、ふっと抜ける。
するりとそのまま離れていくような感覚に、気付けば強く握り返していた。
「自分勝手じゃないっ!」
自分でも驚くくらい、大きな声を張り上げて。
「アレンくん…私の言葉、聞いてた?」
「え?ぅ、うん」
「ううん聞いてないっ」
「え"っ」
全然、全然聞いてない。
つい前のめりに感情を押し出せば、仰け反りながら退き気味にアレンくんは困惑の表情を見せた。
「それこそアレンくんの言う"自己満足"だよ…私はアレンくんに私を貰ってって言ったの。なのになんで私の都合を考えていない欲になるの?」
アレンくんの好きな所に、真面目で誠実で、責任感が強い所もあるけれど…その分、なんでも自分一人で背負ってしまおうとする所がある。
苦しいことも、辛いことも、悩み事も、泣きたくなるようなことも。
優しい笑顔の下に隠して、見えなくする。
それもアレンくんらしさだとは思ってるけど…そんなアレンくんも好きだけど…でも、ちょっぴり、嫌いな所。