第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「あ、雪」
窓の外を見て、ぽつりとアレンくんが呟く。
誘われるようにカーテンの隙間に目を向ければ、真っ暗な空から振り落ちる微かな白い粒が見えた。
「今夜は一段と冷えそうですね…椛、おいで」
見慣れた彼の部屋。
ベッドの上で誘ってくる、優しいアレンくんの声。
でもそれが意図的な意味のある言葉でないことは、わかっていた。
「うん」
誘われる手を握ってベッドに乗る。
化粧も髪飾りも纏っていない私は、普段の私に逆戻り。
…まるで特別な一日が終わってしまったみたいに。
泊まりたいと、まだ一緒にいたいと願った私に、彼は応えてくれた。
優しく、綺麗な笑顔を向けて。
まるで私の我儘を拾ってくれた、大人のような対応。
…それがなんだか、少しだけ心を寂しくさせた。
「寒かったら言って下さいね」
優しいアレンくんの体温に包まれて、ベッドに沈む。
だけどそこに艶やかな空気はない。
私だけがこんなにぎこちないのが可笑しいのかと思える程、アレンくんは普通だった。
…私がやっぱり可笑しいのかな。
誘ったのはアレンくんだから。
それに私は応えただけ。
私の方から強請るなんて、いやらしく思われちゃうかな…。
背後から包むように抱きしめてくれるアレンくんの体温を感じながら、枕に頭を沈める。
ドキドキするけど、不思議と安心感もくれたアレンくんの腕の中。
なのに、今はしくしくと寂しさを感じる。
傍にいるのに。
なんだか遠くに感じる。
ちゃんと誕生日のお祝いは言えた。
プレゼントもあげられたし、喜んでもらえた。
ノアの邪魔は途中で入ってしまったけど、街でのお洒落なデートは楽しかったし思い出もできた。
…ジョイドさんだって、"幸あれ"って言ってくれた。
初めて迎えた恋人の誕生日にしては、上出来だ。
何も不出来な所はない。
なのになんでこんなに心が寂しくなるのか。
ただ一つ、彼に抱いてもらうという行為がないだけで───
「………」
…ああ、そっか…
私、やっぱり不安だったんだ