第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
言えばそこで初めて気付いたかのように、アレンくんはぱちりと目を瞬いて周りを見た。
「あ、そうですね」
あっさりと、そんな返事一つだけで。
…あ、あれ…下ろして、くれないの…?
「では帰るとするかのう。これ以上此処にいても、恋愛ドラマの続編を見せつけられるだけだ」
「珍しくお前に同感だわ…」
そんな私達を尻目に、去ろうと促すワイズリーくんに彼も異論はないらしい。
なんでそんなにあっさり退いてくれるのか。
不思議に思っていれば、首だけ捻ったワイズリーくんの切れ目が私に向いた。
(これはワタシからの礼だ、椛)
あ、また私の思考…というか、お礼…?
(ティキの生誕を祝ってくれた主の気持ちは、本物だったからのう。我が家族の生誕を祝福されれば、ワタシも嬉しいのだ)
それは…その…否定はしないけど、偶々というか…
(偶然も必然だ。折角のクリスマスだ、偶には争いの無い日もあってよかろう)
わぁ…なんだかノアらしくない言葉。
ワイズリーくんに出会ったのは初めてだったけど、ノアって皆こんな優しい所があるのかな?
思わずまじまじとワイズリーくんを見ていれば、にっこりと綺麗な顔で返されただけで。
それ以上私の頭で彼の声が木霊することはなかった。
「本当に大人しく帰るんですか…信じられないんですけど…」
「疑い深いねぇ。…偶にはな。椛ちゃんに感謝しろよ」
赤いショールを指で軽く叩いて、ぱちんと軽やかなウィンクを飛ばしてくる。
ティキ・ミック…基ジョイドさんは、どうやらあのショールを気に入ってくれたらしい。
やっぱり、ノアにも優しい所があるのかもしれない。
そんなこと考えたこともなかったから驚いたけど、なんだか少し心がこそばゆくなるようだった。
「ならさっさと消えて下さい。椛にまたちょっかい出したらそのワカメ頭煮ダシに使いますから」
「本っ当今日は口悪いな、少年」
…アレンくんは凄い嫌悪感丸出しだったけど。