第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「それは僕の台詞です。放せとは言ったけど落とせとは言ってない」
彼の言葉を跳ね返すかのような強い声が近くで聞こえた。
望んだ声に、今度は慌てて視線を下に向ける。
地面まで僅か数メートル。
地面の雪が抉れるくらい急いで来てくれたんだろう、其処に立つアレンくんが、体に纏う帯を全て私に向けていた。
…あれ。
そういえば手首一つ支えられているだけなのに、体に体重が掛かる負担はない。
「大体その衝撃で手首なんて掴んだら、下手したら関節抜けますから」
「そう言うなよ。少年の姿が見えたから、の敢えての行動だろ?」
「そんな譲り合い要りません。椛が怪我したらただじゃ済ましませんからね」
よくよく見れば私の体には至る所、真っ白な帯が巻き付いていた。
まるで意志があるかのように、体に巻き付いた帯が下から私を押し上げている。
手首の痛みが一瞬で済んだのは、アレンくんのベルトのお陰だったんだ…。
「わかったよ、譲り合い精神は無しな。じゃ、少年その白紐外して」
「は?外すべきはそっちでしょ。さっさと汚い手を椛から離して下さい」
「今日は一段と口悪ィなー。彼女の前でそんな言葉遣いしてると嫌われるぜ?」
「余計なお世話です。さっさと放せエロ鬼畜黒子ワカメ」
「暴言少年と化したなオイ」
ぽんぽんと上から下から繰り出される弾丸のようなキャッチボールのやり取りに、あたふたと二人を交互に見渡す。
だけど目を止めたのは、彼に睨みを利かせながらもずっと私に向かって腕を広げて構えてくれている、アレンくんだった。
さっきまで禍々しく渦巻いていたペンタクルは、いつの間にか元に戻っている。
睨む顔は怖いけれど、肌を粟立たせたような寒気は感じられない。
よく知っている、いつものアレンくんだ。
…よかった。
「…アレンくん」
「はい?」
思わず口元が綻ぶ。
堪らず名前を呼べば、言い合いをしている最中でもちゃんと応えてくれた。
それも彼の優しさの一つ。
…ああ、いつものアレンくんだ。
目が合って、応えてくれるだけでほっとする。
やっぱり彼は───
「大好き」
世界で一番、私の好きなひと。