第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「っ…ごめんなさい!」
考え付いてから行動に起こすまで、数秒も掛からなかった。
躊躇していたら殺られる。
そんな世界で生きている自覚はある。
「ッ!?」
だからティキ・ミックの目がショールに向いている間に、私を抱いている腕に思いっきり噛み付いた。
薄い服じゃ大した厚みにはならない。
噛み千切るくらいの力で歯を立てれば、痛みは直接肌に伝わったんだろう。
いくらノアでも予想外の痛みに平気な顔はできないはず。
一瞬怯んだ腕の隙間で、私は大きく身を捩った。
「何を…ッ」
彼の声なんて待っていられない。
私を束縛しているけれど、守ってもくれている腕を抜け出せば地面に真っ逆さまに落ちるだけ。
それでもよかった。
「椛ッ!」
「チ…ッ!」
腕から抜け出せば、急に体に重力が掛かったかのように真っ逆さまに落下する。
アレンくんの呼ぶ声とティキ・ミックの舌打ちが耳に届く。
でも構う暇なんてない。
結構な高さだったけど、下は雪が積もってる。
少しでも厚みのある場所に落ちれば多分助かる。
後は頭から落ちないようにしないと…っせめて足なら折れても平気だ。
頭を守るように体を丸めて衝撃に備えた。
アレンくんの足手纏いになるのは嫌だけど、戦闘の邪魔になるのはもっと嫌だから。
この隙にアレンくんがあのノアを討ってくれれば───
「ぁ…ッ!?」
急な痛みは手首にきた。
一瞬だけだったけれど。
ガクン、と急に体にブレーキが掛かる。
「はぁ…あっぶね…」
同じような声を、ついさっきも聞いた気がする。
焦りの混じった、珍しいと思った…ノアの声。
「ったく…何やってんの、椛ちゃん…」
私の手首を強く掴んで、宙に浮いているのはティキ・ミックだった。
思わず見上げれば、ほっとした脱力気味の笑顔が向けられていた。
「ジョイド、さん…?」
あれ…助けて、もらった…?