第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「虐めるな、ね」
じっと私を見下ろす黄金色の目が、不意に細まる。
そこに宿って見えたのは、揺らめく不可思議な色合い。
「じゃあさ、椛ちゃんが少年の代わりになってくれる?」
ぐっと顔を近付けて薄い笑みを浮かべ、問い掛けてくる。
吐息も掛かる程の距離に、不可思議な色を纏った瞳に捕えられる。
「俺の玩具になってよ」
狂喜のようだった。
「っ」
息を呑む。
と同時に、ふと視界の隅で何かが揺らめいた。
───ガガガッ!
何かを削るような轟音。
強い動作に振り回されて、反射的に目の前の体にしがみ付く。
「っ…あっぶね」
さっきまで飄々としていたティキ・ミックの声が、微かな焦りを垣間見せた。
「椛ちゃんがいるんだ、手加減しろよ」
「元より椛に当てるつもりはない」
私を抱いたまま、彼が見据えた先には建物の壁に足を付けて立つアレンくんの姿。
その真っ白な体からは、幾つもの白い帯が繋がり周りの建物に張り巡らされていた。
アレンくんにこのノアのような宙を飛ぶ能力はない。
"道化ノ帯(クラウンベルト)"で追ってきたんだ。
そのベルトが一つ、ティキ・ミックの顔擦れ擦れを通り後ろの建物の壁を破壊していた。
もう少し左に逸れていれば、彼の頭を粉砕していただろう。
「もう一度言う。椛を放せ」
敬語も何も金繰り捨てたアレンくんの冷たい目は、真っ直ぐノアにだけ向けられていた。
左眼の赤黒さがいつもより増している。
まるで感情に比例するかのように、ぞわぞわと赤いペンタクルが渦を巻きアレンくんの顔を覆っていた。
いつものアレンくんじゃない。
そわりと肌が粟立つ。
「少年にお嬢さんは鬼門だったか」
やれやれと肩を竦めるノアが、ぼやきながら気にしたのは私じゃなく、何故か首に巻いているショールだった。
ちらりとそこに目を向けて何かを思案している。
なんだろう?
理由はわからない。
でもこれはチャンスかもしれない。
私がこの人の腕の中にいたんじゃ、アレンくんは普段通り戦えない。
───逃げなきゃ