第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「──…で、オレんとこに愚痴りに来た訳さ?」
「…別に、愚痴りになんか…」
「ハイハイ。ま、ユウの手が早いのなんて今更さ。諦めろって」
神田から逃げた先の談話室。
其処で見知った赤毛の青年を見つけて、気付いたら声をかけていた。
そして気付いたら、神田の不満をグチグチと口にしてしまっていた。
神田への私の想いを知っている人は少ない。
だからこそ、この不満も愚痴も言える人は限られてしまう。
この目の前の赤毛の兎さんは、そんな数少ない中の一人。私の想いを、知っている人。
「オレもよく殴られてるしさー。グーで遠慮なく頭殴るから、痛いのなんのって」
「だからってさ…ちょっと距離取ろうとしただけで殴るなんて…度が過ぎてない?」
「それがユウなりのコミュニケーションなんさ」
あ、私が自分に言い聞かせてることと同じこと言ってる。
「それにオレから見れば、充分ユウは雪に優しいと思うけど」
「…は?」
何言ってんの、兎さん。
突拍子もないラビの言葉に思わず目が点になる。
どこをどう見たら優しくしてるって思えるんだろう。
あんなにバシバシ頭叩いてくるのに。
「ラビ、目大丈夫?」
眼帯なんてしてるから、よく見えてないんじゃないの。
「酷っオレの目は正常だから! 寧ろ雪の方がもっとちゃんと見るべきだって。ユウは優しいだろ、雪に対してだけだけどッ」
「だからどこをどう見たらそう思えんのッ」
心外だとばかりに声を上げるラビに、私こそ心外とばかりに言葉を返す。
ラビが神田のフォローするなんて珍しいけど、賛同してあげる気はない。
優しいっていうのは、リナリーに対しての態度みたいなのを言うんだよ!
神田、リナリーには手を上げないんだよ!?
私なんてスパスパ叩かれてるのに!
恋人より幼馴染ですかそーですか。
神田の優しさは美少女限定ですかそーですか!
「そこはホラ、殴る度合いというか──」
「そこまで言うならラビが代わってくれるかな、私が頭殴られる時!」
「や、それはゴメン」
ほら見ろ。