第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
──数時間前
神田は一言で言うなれば"暴君"だ。
「おいコラ、逃げんな」
「痛いッ」
ばしんっと後ろから遠慮なく頭を叩かれて、思わず口から悲鳴が漏れる。
逃げてないから!
神田が怖い顔するから、ちょっと背中向けて距離取ろうとしただけだから!
なんでそうやってすぐ叩くかな!
「頭割れたらどうすんの…っ」
「割れねぇよ、そんくらいで。いつも大袈裟なんだよ、お前は」
大袈裟じゃないから!
頭割れるから!
そうやって叩かれた後頭部を押さえて睨み上げても、しれっとした顔で応えてくる。
本当、これで恋仲なんて言えるのか。自分でも不思議に思うくらい。
というか、好意を抱いてる相手に躊躇なく手を上げるってどういうこと。
「神田はさ…っ」
「なんだよ」
「……なんでもない」
"私のこと好きでいてくれてるの"
そんな馬鹿げたことを問いかけそうになって、口を閉じた。
神田が手が早いことなんて前々から知っていたし、それを承知で私はこの人を好きになった。
想いが実ったからって、ころっと態度を変えるような相手だとは思ってないし…"そのままでいろ"って神田が言ってくれたように、神田にもそのままでいて欲しいと思う。
……だけど。
「…医務室行ってくる」
「医務室?」
「氷水貰いに。誰かさんが頭叩くからっ」
「おい…っ月城!」
せめてもの抵抗とばかりに、言い逃げして走り去る。
背中に神田の私を呼ぶ声がかかったけど、振り返らなかった。
医務室に行くなんて嘘だけど。
タンコブだってできてやしないけど。
でもヒリヒリ痛むのは本当なんだから。
もう少し丁寧に扱ってくれたっていいでしょ。
本当、いつもいつも頭叩き過ぎなんだから。
アレンの言う通り、叩き過ぎで頭が馬鹿にでもなったらどうすんの。
いやまぁ、自分が頭の良い人間だなんて思ってないけど。
そこまで馬鹿だとも思ってない。
というかそもそも、私は人間サンドバックじゃありません!