第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「このキッシュ、凄く美味しいね」
「あんまり美味しいんで一口で食べちゃいましたよ」
「あはは、流石アレンくん」
目の前の料理に集中しようと手を早めれば、向かいの席に座ったアレンくんのお皿の中はもう空っぽ。
いけない、待たせちゃってる。
私も早く食べ終わらないと。
「そんなに慌てなくても、ご飯は逃げたりしませんから。ゆっくりでいいですよ」
そんな私の態度に気付いたアレンくんが、両手を緩やかに組み合わせて肘をテーブルに付くと、穏やかな笑顔を向けてくれた。
いつもは掃除機みたいに次々と料理を飲み込んでいく姿が当たり前だったから、静かにしてるアレンくんがなんだか別人のように見える。
…そういえば、此処凄くお洒落なお店だから。
ランチのデザートも上品な物珍しいキッシュで美味しくはあったんだけど、量は並。
「…アレンくん、もういいの?」
「うん? 何が?」
「ご飯。それだけでお腹いっぱいになった?」
いつものアレンくんなら絶対に足りない量。
一緒に外食に行く時は、もっと食べてた気がする。
これだけでお昼足りるのかな?
「大丈夫ですよ。帰ればジェリーさんの夕飯が待ってるし。これだけで」
「そうなの?」
「はい」
心配になって問い掛けても、返されるのはさらりとした綺麗な笑顔。
確かに、帰ればジェリーさんのクリスマスフルコースが味わえるけど…それまでにお腹、保つのかな。
「ふぅ。ご馳走様でした」
空になったお皿にスプーンとフォークを並べて一息。
コップの水を口に少量含みながら、お腹が満たされると慌ててた思考も少し落ち着いた気がした。
改めて店内を見渡せば、クリスマス用なのか、控え目だけど綺麗な電飾が鏤められてある。
一定間隔で離れたテーブルは、他のお客の姿は見えるけど視界の邪魔にはならない。
店内を流れる上品なクリスマスソングは、会話を妨げない程度に心地良く耳に届く。
恋人同士の為にあるような、お洒落な空間のお店。
こんな所にアレンくんと二人で食事に来たのは、初めてかもしれない。