第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
丸いプレートの白いお皿に飾られた、空豆とポテトのキッシュ。
その隣には色とりどりのチョップドサラダが華やかに添えてある。
キッシュの上に飾られたサワークリームをスプーンで救いながら一口。
だけど私の心は此処に在らずだった。
『じゃあ下さい。椛を聖なる夜に』
だって、今朝方そんなことをアレンくんの真っ直ぐな瞳に捕えられて囁かれたんだから。
下さいって。デザートって。
食べ物に例えるところがなんともアレンくんらしいけど。
それって…そのぅ…そういう、ことだよね?
アレンくんに、心だけじゃなく…身体も捧げるって、そういう。
「……」
ドキドキと胸の鼓動が速くなる。
銀のスプーンを握る手にも汗を掻きそうだ。
「椛?」
すると目の前で名前を呼ばれた。
聞き慣れた声にはっと顔を上げれば、きょとんと私を見てくる銀灰色の目と重なる。
ドキリとする。
今朝方、私を下さいと言ったあの顔と重なって。
「大丈夫ですか? あんまり食が進んでないみたいだけど…美味しくない?」
「ぅ、ううんっとっても美味しい!」
少し心配そうに首を傾げてくるアレンくんに、慌てて首を横に振って笑顔を返した。
駄目だな、折角のデート中なのに。
それもアレンくんの誕生日とクリスマスが重なった、特別なデート。
いつも二人でお出掛けする時は勿論お洒落に気を遣うんだけど、今日は特別に余念がない。
だって一年に一度の日だから。
アレンくんの記憶にしっかり残して置いて欲しい。
…それに、その、そういうことをするなら、尚更。
可愛い姿でいなくっちゃ。