第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
大きな上着に着られた状態で、唯一出ている顔の周りもブランケットで包めば辛うじてちょこんと覗いている程度。
もこもこと膨らんだ体に、丸い目と少し赤みを帯びた鼻先。
「……」
「ユウ?」
「…雪だるまみてぇ」
「んなっ…わ、笑うなってばぁ…!」
堪らず凝視し噴き出せば、もこもこの体で雪は神田の体に衝突した。
痛くもない小さな抗議を受け止めて、笑い声を上げる。
「もう! 早くお風呂行けば…! ちゃんと髪も乾かしてね!」
笑うことを止めない神田に先に折れたのは、ぽこぽこと丸くなった体を揺らし怒る雪の方だった。
しかしその口からはしっかりと忠告も忘れていない。
「はいはい、わぁったよ。そういうお前も、ちゃんと食堂で待ってろよ」
「…え?」
「シャワー浴びたら飯を食う。腹減ったからな」
握っていた六幻を肩に掛けて、先の廊下に踏み出したのは神田。
「だから待ってろ」
ちらりと顔だけ振り返り、緩んだ口元は柔らかい表情を作り上げる。
その一言だけで背を向け去っていく神田に、雪は咄嗟に返す言葉がなかった。
返事は勿論YESだ。
しかし言葉に詰まったのは、明朝には見られなかった彼の稀なる表情を見られたからか。
「……もう」
一人廊下に残される。
開放扉から流れ込む師走の冬風は冷たい。
しかし窓硝子越しに降り注ぐ朝日は、雪の体を確実に温めていた。
「こんな格好で待ってたら、周りになんて言われるか…」
朝日だけではなく確実に体を温めているのは、着込んだ大きな彼の上着。
そこに顔を埋めるようにして、雪は不満をぽそぽそと漏らした。
「別に、いいけど」
どうしようもなく緩んでしまう口角を隠すように。