第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
一人廊下を進む。
神田の足取りに迷いは見当たらない。
頭は冷えた。
雪の傍なら声を出して笑うこともできた。
しかしアルマへの思いが萎んだ訳ではない。
きっとこの先もこの日を迎える度に、彼への思いは膨らみ、自身への憤りは募り、焦がれ時には潰されることもあるだろう。
誰かに支えて欲しい訳ではない。
『もしも、でいいから。もしその日がきたら…その時は聞かせて』
それでも、もしこの先。先の見えない未来に。
本当にいつか、彼女に話せる時がきたならば。
(その時は、お前のことを伝えてみる)
誰にも言えなかった唯一の彼への思い。
同情して欲しい訳ではない。
理解を望む訳でもない。
ただ、先は見えずとも"もしも"の未来を僅かにでも願うことができたから。
神田の誕生日を祝う際に、生まれたことを祝福することの憧れを強く見せていた雪。
彼女ならばきっと、この日を、アルマのことを、共に祝おうとしてくれるだろう。
あの日あの深く冷たい地下の研究室で、たった一度だけ訪れたアルマの誕生日を祝ってくれた者達は消えてしまった。
あの日に、彼に"おめでとう"と言葉を向けた者は、もうこの世にはいない。
ただ一人、満足に祝いもしなかった自分だけは生き続けているから。
「また来年な──アルマ、」
生き続ける限り、彼への思いも生き続ける。
今日はアルマの生まれた祝福の日だ。
大切な彼が主役になれる、一年でたった一日。
その日くらいは、彼のようにとはいかずとも笑って過ごしてみようじゃないか。
『ユウ、だいすき』
あの記憶にこびり付いて離れない、儚くやわい笑顔を想って。
Happy Birthday Alma.