第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
お互いに流れていたぎこちない空気は、いつの間にか跡形もなく消えていた。
神田の手を握り返しながら、少し照れたように笑う。
「ぃっきしッ」
そんな雪の表情を崩したのは、師走の冬風が齎したくしゃみ。
「ったく…だからってこんな所で寝る奴があるかよ。そのスープお前が飲め」
忽ち呆れた表情に変わる神田に、鼻を啜りながら雪も負けじとコップを差し出した。
「いいよ、ユウの方が外から帰ってきたばっかりなんだから寒いでしょ。ユウが飲んで」
「運動量が違ぇだろ。いいから飲め」
「ユウの為に用意したんだってば。だからユウが飲んでくれないと」
「また意地張んのかよ」
「張ってないよ。ただ──」
きゅるるるる
再び雪の声を遮ったものは、切実なる腹の虫。
「……くっ」
「!」
堪らず顔を逸らし噴き出す神田に、ぼんっと音を立てそうな勢いで雪の顔が真っ赤に変わった。
「どんだけ腹空かせてんだお前…っ」
「そ、そんなに笑わなくたっていいでしょ!? 自然現象だから!」
「はいはい、自然現象な」
「笑いながら言わないでッ」
「はいはい、悪かったよ」
「謝ればいいってもんじゃないから! もう笑うなってば…!」
これ以上突っ込めば彼女の顔は真っ赤なイチゴかトマトと化すだろう。
その様を見届ける興味も湧いたが、此処に長居すれば確実に雪は風邪を引く。
「いいから飲めって。風邪引くだろ」
「わぷ…っ」
口の端から笑いは零れたまま、雪の握っていたコップを持つ手を押し戻す。
ついでに肩に掛けていた上着を頭からばさりと被せた。
「これも着てろ。看病は勘弁だからな」
「っ…でも、それじゃあユウが…」
「俺は今からシャワー浴びてくるから平気だ。それ着てそれ飲んで、お前は体温めてろ」
「あ、そっか…」
言えば、雪自身が神田に進めていたことだったからか。すんなりと退く彼女の体を、神田の手は休むことなくしっかりと上着で包み込んだ。
尚且つ上からブランケットを巻いてやり、これで大丈夫かと低い位置にある頭に手を置く。
わしわしと撫でれば、くすぐったそうに乱れる髪の間から雪の目が神田を見上げた。