第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
迷いなく告げられた言葉に、やがて雪の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「そっか…よかった」
短い言葉だった。
たったそれだけの言葉で全てを呑み込んだのか、雪の和らぐ表情を見つめながら自然と神田の口を付いたこと。
「…聞かないのか」
それは神田自身、問い掛けるつもりは毛頭もなかったものだった。
「俺は何も話してないだろ。勝手にぶつけられたもんに、不満はねぇのかよ」
神田が雪の立場だったら確実に不満を抱いただろう。
身勝手な苛立ちを関係のない自分に向けられれば、不満の一つも抱く。
アルマとのことを他人に割り込んで欲しいとは思えないのに、気付けばそんなことを問い掛けていた。
しかし物珍しそうに神田をまじまじと見上げながら、雪が見せた応え。
それはすんなりと首を横に振り否定する姿だった。
「ないよ、不満なんて。…不安は、少しはあったかもしれないけれど」
でも、と下がる瞳が見つめる先は、しっかりと手首を握ってくる神田の手。
「ユウが大丈夫だって言うなら、それでいいよ。…もし話せる時がきたら、その時は聞かせてもらいたいけど。今はこれだけで充分」
掌から伝わる、じんわりとした微かな温かさ。
ゆっくりとだが、確実に雪の体を温めていくもの。
それと同じだ。
時間は掛かるかもしれない。
距離も掛かるかもしれない。
それでもいつかその時がきたならば、その時にしかと受け入れられればいい。
神田が言えない思いを無理に抉じ開けるつもりはない。
いつか、という曖昧な距離でも待っていられる覚悟はある。
こうして確かに繋がれていられるならば。
「もしも、でいいから。もしその日がきたら…その時は聞かせて」
握っていた手首の掌が、寄り添うように神田の肌に触れる。
見上げた雪の目はもう逸らされることはなかった。
「…わかった」
気付けば頷いていた。
緩んだ大きな手はするりと雪の細い手首を逃がし、代わりに包むように掌を捕まえる。
「雪が待っていてくれるなら」