第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
(…違う。これじゃ同じだ)
神田の心を尊重したいのに、この気まずい雰囲気を作り上げているのは、結局の所自分本位で起こした行動の結果であることに変わりない。
結局は一人善がり。
雪は握り締めたコップを押し付けるように神田に差し出すと、視線を足元へと下げた。
「私もう行くね。スープは無理に飲まなくてもいいから──」
押し付けるだけで去ろうとする。
その身を止めたのは、雪の押し付けたコップではなく雪の手首を掴んだ神田の掌だった。
思わず顔を上げた目が、真っ直ぐに見下ろしてくる神田の瞳と重なる。
「悪かった」
間髪入れず。その口から間を置かず零れた言葉に、雪の目が更に丸く見開いた。
「頭は冷えた。…余計なことでお前に当たった。悪い」
淡々とした口調だが、深く連れ添った雪にはわかる。
神田なりの親身な姿に、驚き退こうとした腕の動きは止まってしまった。
気まずかったはずの空気が和らぐ。
退こうとしていた足を止めるかのように。
「………もう…大丈、夫?」
気付けば足は、前へと進んでいた。
恐る恐る問い掛ける。
見上げた二つの雪の瞳は、森の中では見せなかった不安げな色を微かに称えていた。
大丈夫だと言えば嘘になるだろう。
煌めく粉雪と朝日の中で、輝く景色と温かい日差しの中で。堪らなく膨らんだアルマへの思いを、簡単に消すことなどできない。
「…ああ」
しかし同時に生まれた憤りを、もう目の前の存在にぶつけるようなことはしたくない。
静かに瞼を伏せると、神田は僅かに頷いて見せた。
「大丈夫だ」