第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
「えっ? はっ? 何っ? 敵襲ッ!?」
「阿呆、目ぇ醒ませ」
「ぇ…ユウ?」
叩かれた頭を押さえつつ、キョロキョロと辺りを見渡す雪の目が神田を捉える。
呆れた顔の彼を見上げて、すぐさま状況を理解したのか忙しない動きを止めた。
「なんでこんな所で寝てんだ。朝飯食いに行ったんじゃなかったのかよ」
「ぁ…うん…行った、よ。時間が余ったから、部屋に戻るついでにユウに差し入れでもと思って…これ、」
しかし問えば再び、しどろもどろに体が動き出す。
ぎこちなく雪が差し出したのは、蓋付きの紙コップ。
「スープ。これなら朝ご飯代わりになるかなって…流石に蕎麦は持って来られなかったから──」
きゅるるる
「……」
「……」
沈黙。
段々と早口に塗り換わる雪の言葉を遮ったのは、彼女の腹から出る空腹のサインだった。
「なんで朝飯食った奴が腹鳴らしてんだよ…」
「っこ、これは急いで食べたからまだ体が空腹と勘違いしてまして…!」
「んな訳あるか」
言い訳らしい言葉を一蹴。
どうせ朝食など食べていないのだろう。
神田が雪と別れて朝日を拝んでいたのは、短くもないが決して長くもない時間。
その間に朝食を取り差し入れを用意し出戻り寝落ちる時間などあるか。
考えれば簡単なことだ。
「待ってたんならそう言え」
「っ…」
素直ではない雪の態度を溜息混じり諭す。
しかし彼女はぐっと唇を噛み締めると俯き視線を逸らした。
「待ってないよ…偶然だから」
「何意地張ってんだよ」
「…張ってない」
意地ではない。
それ以上に守りたいのは、自分の思いより神田の思いだ。
(お節介だって、思われたくない)
口にはできない思いを噛み締める。
本当は気になって仕方なかった。
怒鳴られようが殴られようが傍にいたかった。
しかしそれで神田の心を踏み荒らしてしまっては本末転倒。
何よりも気になるからこそ、何よりも守りたい。
だからこそ感情を殺し身を退いたが、不可解な神田の態度が、その心が、気に掛かって止まなかった。
せめてもと自然な装いで最後に体を温めるものでも用意しようとしたが、どうやらそれは失敗に終わってしまったらしい。