第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
コツコツと、人の気配の無い廊下に響く静かな足音。
雪で濡れたブーツは、冷たい廊下に僅かな水跡を点々と残していく。
同様に濡れてしっとりと肌に張り付く長髪をそのままに、神田は一人教団内へと戻ってきた。
決して短くはない時間、粉雪舞う世界に身を置いていた所為で太陽光に照らされた体は僅かな熱を与えてくれたが、それ以上に体温は奪われた。
すっかり常温よりも下がった体内の温度に、白い息を口元に纏わせつつ足早に暗い廊下を進む。
日はすっかり昇り切ったがまだ朝は早い。
トレーニングの際にいつも使用している人気のない常時解放型の裏口から踏み込めば、シンと静まり返った静寂だけが空気を澄み渡らせていた。
雪に言われた通りに、シャワーを浴びて体温を温めよう。
頭はすっかり冷え切っていたが、彼女の言う通りにした方が良さそうだと迷わず向かう先はシャワー室。
「──…」
「…?」
だが。
「……」
「……」
「……」
「……オイ」
其処で見るはずのないものを見てしまった足は、つい止まってしまった。
思わず渋い声を掛ける。
何故此処にいるのか。
「んむ…」
しかしそれから返事はなかった。
それも当然。
何故なら夢の世界へと旅立っていたからだ。
(何やってんだこいつ…)
開放扉の先の廊下。
其処に設置されている休憩用のベンチの隅で、鞠のように体を丸めてブランケットに器用に包まっているのは、食堂に向かったはずの雪の姿。
渋い顔で見下ろす神田の威圧ある視線にも気付かず、すやすやと寝息を立てている。
「っ…ん、」
解放された扉から舞い込む冷たい師走の冬風。
ふるりと体を微かに震わせ、更に身を縮ませる雪に神田は溜息を零した。
こんな所で放っておけば、十中八九風邪を引く。
見て見ぬフリはできない。
「おい雪起きろ」
「すや…」
「おいって」
「んむ…」
「どんだけ寝付きいいんだよ」
「むにゃ…」
「起きろっつってんだろ!」
「ッ!?」
ばしんっと強烈な叩きを頭に一打。
飛び起きるように身を跳ねさせる雪の顔は、混乱しながらも両目をかっ開いた。