第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
一度も伝えられなかった。
変な意地が邪魔をして、小さな見栄で突っ撥ねた。
ちっぽけなプライドを大層に抱えて。
〝おめでとう〟
たったそれだけの言葉を、何故願ったアルマに掛けてやれなかったのか。
彼はいの一番に伝えてきてくれたというのに。
アルマの人生を奪ったことは、後悔なんてものじゃない。
重く伸し掛かった鎖で雁字搦めにされているような感覚。
それでも神田はそこから抜け出す気はなかった。
これは背負っていくべきものだ。
自分が生涯を賭けて抱えていかなければいけないもの。
誰かに救いを求めたい訳ではない。
アルマに許されたい訳でもない。
ただ一つ。
一年でたった一日だけでも、彼を主役にさせることができなかった幼い自分に対して行き場のない憤りを感じるのだ。
目覚めた時から感じていた苛立ちは、アルマに向けてではなかった。
9年経った今も変わっていない、自分自身にだ。
「……」
ゆっくりと照らす朝日が、神田の足元まで伸びていく。
光に反射する六幻を鞘に戻すと、朝日で輝く空を仰いだ。
雪雲の隙間から見える澄んだ青空は、人懐っこい猫目の彼と同じ瞳の色。
9年経った今でも、微塵も変わっていない自分。
それでもほんの少しだけ、今なら踏み出せる気がした。
「はっぴーばーすでぃ、アルマ」
いつか会いに行くその時まで。
大嫌いな青空に思いを馳せ続けてもいい。