第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
ぱさりぱさりと枯れ葉を踏み付ける雪の足音が遠のいていく。
再び一人となった空気の中で、神田はゆっくりと息を吸い込んだ。
『キラキラしてて、すぐ消えちゃうものなんだって。エドガー博士が教えてくれたんだ』
白けた空に、朝日は近い。
明るくなっていく世界に降り積もる、きらりと光る結晶体。
(嗚呼、確かに)
アルマの言う通りだと思った。
音も無く歩み寄ってくる太陽光。
山並みを照らし、雪雲を照らし。割れた岩の上に佇む神田の顔を、ゆっくりと照らしていく。
温かな朝日が視界に入り込めば、一瞬にして眩い世界へと変わる。
その視界の中ではらりはらりと舞い散る粉雪は、一瞬にして消える儚いもの。
しかし目に焼き付く程に、煌めく光景だった。
『いつか見てみたいなぁ…ユウと一緒に』
そう懇願するように呟いて、分厚く暗い地下アジア研究所の天井を見上げていた彼は、もういない。
一度も目の前の景色を拝むことなく、この世界から消えてしまった。
「…っ」
否。消えたのではなく潰された。
この手に握り締める六幻によって。
「──…めん」
噛み締めた唇の間から零れ落ちたのは、普段の神田からは聞けないような儚い声だった。
「ごめん」
『あのね、ユウ』
『あ?』
『ぼくはフユと一緒に生まれたんだよ』
『?…だからなんだ』
『だから、ね。だから…』
「ごめん、アルマ」
『んだよ、はっきり言え』
『あの、あのね。だから──』
今でも鮮明に憶えている。
彼の声も、顔も、触れた体温だって。
忘れまいと心が叫ぶ。体が呻く。
なのに何故、忘れていたのか。
『ぼくの、たんじょうびもあるんだ』
今日は、彼の生まれた日であったことを。