第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
雪を傷付けたい訳ではなかった。
それでも勢いで出た感情は引っ込みようがない。
こういう時にどういう言葉を掛ければいいのか。
いつも何かしらアルマと衝突していた時も、謝るのは素直な彼の方だった。
「……」
沈黙ができる。
何か言葉を掛けるべきだとわかっていても、上手い言葉が吐き出せない。
重い空気を抱えた神田と雪の間を遮断したのは、光る結晶だった。
「…ぁ」
ひとつ、ふたつ。
音も無く振り落ちてくる小さな塵の結晶。
冷えた朝に澄み渡る空は、優しい粉雪を降らした。
見上げた雪の目に映る輝く結晶体に、堪らず声が漏れる。
「任務地では邪魔でしかなかったけど…こうして見ると綺麗、だね」
微かに掌を上げて粉雪を受け止めながら、やんわりと先に踏み出したのは雪の方だった。
はにかみ掛ける彼女の姿に、神田は微かに目を見開いた。
『でもね、ユキってものを作り出せるんだよっ』
思い出したからだ。
知らない世界を乞うて弾む声で口にした、彼のあの言葉を。
「ユウ?」
反応のない神田に、恐る恐る控えめな雪の声が呼ぶ。
ぐっと六幻の柄を握る手に力込めて、神田は静かに背を向けた。
「…頭を冷やす。一人にさせてくれ」
感情の見えない声は、先程の冷たさを消していた。
神田なりに譲歩した結果なのだろう。
雪にこれ以上罵声を飛ばさないように。
しかし目も合わせず素っ気ない神田の物言いに、雪は微かに眉尻を下げた。
「…うん。わかった」
しかしそれも一瞬。
深呼吸を一つ、次に浮かんだのは笑顔。
「ご飯先に食べてるね。私のことは気にしなくていいから、トレーニング終えたらちゃんとシャワーで体温めるんだよ」
じゃあね、と呟いて手を振り去っていく。
名残惜しさを見せない雪の姿は、今の神田には救いだった。
夢にまで見る程に執着しているものを、心にこびり付いているものを、今は吐き出そうとすれば途端に醜いものへと変わってしまう。
神田自身が処理し切れていないものを、安易に他人に吐き出すことはできなかったからだ。