第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
──ギィンッ!
鋼鉄同士がぶつかるような鋭い音が、闇夜の森に響き渡る。
朝は近いのだろう。
薄らと白けてきた澄み渡る空に、塒から飛び出してきたのか、音に驚いた鳥達が羽搏き飛び去った。
「チッ」
自身の室内の二階建てはあろうかと思える巨大な岩の上で、六幻を突き立てていた神田は荒く舌打ちを零した。
ビシビシと六幻を突き刺した箇所から罅が入り込み、あっという間に巨大な岩を真っ二つに裂いていく。
ずずん、と地響きのような音を立てて割れた岩肌の片割れが地に落ちた。
足場の悪い獣道を駆け回り、荒く振るった六幻は目につくものを手当たり次第に斬り付けた。
自分でも冷静さを欠けているのはわかっていたが、目の前のことに集中しようとしてもしきれないのだ。
脳裏にチラつく、彼の顔が忘れられずに。
突き刺さる寒さとは裏腹に熱をこもらせた肌が汗粒を浮かせる。
「ふわぁ…凄い音がしたかと思えば。森林破壊しないでよ?」
そこへ飛んできた控えめな声は、数時間前に聞いた声だった。
気配で感じ取っていた神田は然程驚く様子も見せずに、真っ二つに割れた岩の上で振り返った。
見下ろした先には、案の定。白けた空の下、分厚い上着を羽織った雪の姿が見える。
「何しに来た」
「何しにって…ユウ、割と薄着で出て行ったから。大丈夫かなって」
見下ろす目と同様に冷たい言葉を吐き出す神田に、雪は怯むことなく軽く肩を竦める。
と、持っていた水筒とブランケットを持ち上げて見せた。
「少し休憩しない? ユウの好きな白茶持ってきたよ」
「要らねぇ」
「適度な休憩も必要だよ」
「必要ない」
「でも…」
「構うなっつってんだよッ寄るな!」
目覚めた時から蓄積していたアルマへの苛立ち。
誰にも触れて欲しくないのに、雪でさえも今では鬱陶しい存在でしかなかった。
つい荒げた声に、過度な運動で酸素を必要としていた息は簡単に上がった。
「っは…ッ」
荒い息は真白な蒸気へと変わる。
その蒸気越しに見えた雪の表情は、きゅっと唇を噛み締め言葉を呑み込むもの。
下がる眉に、暗い色を宿す瞳。
はっとした時にはもう、彼女の顔は影を帯びていた。