第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
「なんで生まれたことがそんなに嬉しいんだよ…俺は別に嬉しくなんてない。こんな実験ばかりの生活なんて──」
言い掛けてはっとする。
相手は使徒計画を進めている研究員の一人だ。それも誰よりも上の立場に立つ者。
そんな相手に愚痴など零せない。
しかし内心焦りを覚えるユウに対し、トゥイの表情は何一つ陰っていなかった。
「それはユウの気持ちだろう? ユウは嫌でも、アルマは嬉しがってる。今日はアルマの誕生日だ。あの子が主役になれる、一年でたった一度の日。その日を祝ったっていいじゃないか」
「っ…でも…」
「ユウはアルマが嫌いか?」
間髪入れず問われる言葉に、返答が見つからない。
口籠るユウに尚も、トゥイは問い掛けた。
「アルマが嫌いか?」
「…っ」
これが数ヶ月前ならば、即答でYESと応えていただろう。
しかし今はすんなりと言葉は出てこない。
ユウがアルマと過ごした日々は半年程。
しかしその半年で、確かにユウの心境に変化は生じた。
たった二人、同じ使徒である存在。
同じに辛い実験を受け、同じに血に塗れながらも生きてきた。
時には喧嘩し拳を交え、その痛みが可笑しくて笑い合ったこともあった。
後ろを引っ付いてくるうざい奴だとばかり思っていたその存在が、いつからか気に掛からなくなった。
にこにこと笑い掛けてくる顔が、いつからか嫌いではなくなった。
『ユウ!』
彼に名前を呼ばれることが、いつからか心地良くなった。
アルマがいたから、目覚めることにも嫌気が差す毎日を過ごしていられた。
気味の悪い夢に魘されても、知らない世界に惑わされても。それでも逃げ出さずにいられたのは、隣に彼がいたからだ。
「っ…き……嫌い、じゃ…ない…」
つっかえながらも辿々しくも、導き出したユウの応えはYESではなかった。
不器用ながらも彼なりに歩み寄った返答に、不意にトゥイの顔に優しい表情が浮かぶ。
「──だとさ、アルマ」
「え。」
しかし次に声を掛けたのは、隣に座るユウではなく。何故かトゥイの視線の先は、分厚い胎中室の天井を支える大きな柱。
(まさか)
ぎくりと体を強張らせたユウの視線が捉えたもの。
「ぬ、ぬぉ…!」
それは柱の影でぷるぷると体を震わせているアルマの姿だった。