第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
「何がたんじょうびだ、浮かれやがって…」
暖房器具など一切ない、凍えるような胎中室の隅。
小さな体をより丸めて膝を抱いた姿で、ユウは口をへの字に曲げていた。
誰にも見つからないように逃げ込んだのは、この時期には用事がなければ誰も寄り付かない、ユウ自身が生まれた場所。
(…あいつならやって来そうだけど…どうせ今日はどんちゃん騒ぎだろうしな)
どんなに寒かろうが薄暗かろうが、自身の部屋のように敷物を敷いて菓子やジュースを持ち込んでいたアルマが思い浮かぶ。
しかしそんな彼の姿も今日は何処にも見えない。
どうせ研究員達に"たんじょうび"とやらを祝われ、いつものヘラヘラした間抜けな笑顔を浮かべているのだろう。
そう思えば何故だか無性に苛立った。
「…フン」
膝を抱いた腕の上に顔を埋める。
このまま此処で眠ってしまえば、すぐに明日がやって来る。
寒さは身に染みたが、いつもの寝床が用意された部屋に戻る気にはなれなくてユウは固く目を瞑った。
──ザリ、
暫くそうしていると、シンと静まり返った胎中室に響く微かな足音。
まさかアルマが来たのか。
弾けるように顔を上げたユウの目に映ったもの。
「こんな所にいたら風邪を引くぞ」
「…ぁ…」
淡々とした口調で呼び掛けてくる、女性にしては幾分低いテノールの声。
真っ黒な長髪をキリリと縛り上げた、彼女はアジア支部で頂点に立つ肩書きを持つ。
アジア支部長、トゥイ・チャン。
エドガーの妻であり現チャン家の当主である。
「何故アルマといないんだ? また喧嘩したのか」
「…別に」
当たり前のように隣に腰を下ろすトゥイに、ユウは居心地悪そうに余所を向いた。
これがアルマやエドガーであれば簡単に突っ撥ねられるが、常に厳格な態度を見せてくるトゥイの前となると少しばかり身構える。
「アルマが捜していた。ユウがいなきゃ誕生会ができない、だとさ。行っておやり」
「……いやだ」
「何故?」
考える余裕も与えない。
間髪入れず問い掛けてくるトゥイに、ユウはぐっと唇を噛んだ。