第11章 ◆12/6Birthday(神田/セカンズ)
パサリ、と踏み込んだブーツが枯葉を潰す。
教団の周りに生い茂っている森の中は、一歩踏み込めば真っ暗闇。
月明かりさえ届かない闇の中、神田は上着を脱ぎ捨てると六幻だけを手に佇んでいた。
「…チッ」
小動物の気配さえも感じない、ひっそりとした闇夜の森。
雪という気に掛ける相手さえいなければ、荒々しく舌打ちも出る。
夢を見た。
まだ冷水の中に浸かっていた自分を、真っ先に見つけてくれた彼の夢。
起きているのかと恐る恐る問い掛け、やがては満面の笑みで誕生を祝福してくれた。
『嬉しいなぁ、ぼくひとりだけなのかと思ってたから!』
鮮明に記憶にある。
波紋の広がる液体の向こう側で、喜びを露わにしていた彼の姿。
声も、顔も、初めて触れたその温度も。
何もかもを思い出したようで、神田の眉間に深い皺が作られた。
『えっと、ぼくはね…〝Alma〟ってゆーんだって』
一度だって忘れたことはない、その名。
それでも起き抜けに彼女を間違えて呼んでしまう程に、何故あんな夢を見たのか。
忘れなどしない。
忘れることなどできない。
それでも過去を振り返り、悲観するなど嫌いだ。
それで何かが変わる訳でもない。
「夢にまで出てくんじゃねーよ…馬鹿アルマ」
吐き出した悪態は真白な吐息と変わる。
夢の残像を振り払うかのように、神田は鞘を抜いた六幻を強く握り直した。