第10章 ※◆with はち様(神田)
「え?」
「だから、その女の怪我が見過ごせなかったから手袋をやった。また落馬でもされたら後味悪いからな」
「………」
「…んだよ」
教団に帰り着き、任務報告もコムイに済ませた後、軽い気持ちで手袋の所在を神田は雪へと伝えた。
それなら仕方ないね、と軽く返されるものかと思っていたが、返ってきたのは驚きに満ちた顔。
悪いことをしたとは思っていない。
だから素直に話したのだが、思っていたものとは違う雪の反応に内心焦りが生まれる。
AKUMAとの戦闘中に失くしたとでも言えばよかったか。
しかしそれでは嘘をつくことになる。
後ろめたさなど何もないのに、何故嘘をつかなければならないのか。
そこは違うだろ、と自分自身に内心言い聞かせた。
「お前が言ったんだろ。"暖まったら誰かに渡せ"って」
居心地の悪さを感じながら、なんとなしに視線を泳がす。
手持ち無沙汰に首筋を掻きながら呟けば、雪の顔は驚きの色を消した。
「…そっか…そうだったね、うん。自分で言ったのに忘れてたや。ごめん」
軽く笑いはしているが、少し乾いた笑い声。
眉尻が少しだけ下がっている。
怒ってはいない。
怒らないだろうとは思っていたが、この反応は予想していなかった。
「………」
再び目に映した雪の顔に、神田は黙り込んだ。
乙女心がわかっていない、というラビの台詞があのヘラリとした顔と共に頭を過って、若干彼への苛立ちが生まれる。
ラビの助言など承りたくないが、確かに女心はわからないものだと思った。
わからないが、そんな顔をさせたい訳でもない。
任務報告はもう終えた。
報告書は明後日までに仕上げて提出すればいい。
頭のスイッチはもう、任務から切り替えてもいいだろう。