第10章 ※◆with はち様(神田)
「…別に、冷えてもいい」
手持ち無沙汰に首に掛けていた手を下ろす。
伸ばした先は、目の前の雪の小さな手。
「そしたら、月城に暖めてもらう」
緩く片手で包むように握る。
ピクリと手の中で小さな掌が、反応を示したのを感じ取った。
「俺にはこの手があればいい」
そっと引き寄せれば、抗いはされなかった。
女心なんてわからない。
けれど自分が求めているものはわかる。
「それじゃ駄目か」
反応のない雪の顔を伺ってみる。
見えたのは、驚いた顔で見上げてくるまた丸くなった目。
しかし先程とは違うのは、ほんのりと頬を染め上げている色だ。
「…駄目じゃない、です…」
やがて俯き気味に視線が外れる。
顔色はそれ以上わからなかったが、握った掌が応えるように握り返してくれたから。
内心ほっとしつつ、神田はほんの少しだけ口の端を緩めた。
体温が低いのは自分の方。
いつも少しほんのりと温かい肌を持つのは彼女の方。
握り込める小さな掌なのに、じんわりと伝わってくる雪の体温に冷たい肌が温められていく。
掌から伝わる体温。
俯く雪のほんのりと色付いた赤い耳から、視界で伝わる目に見えない温度。
心に染み入る。
それは確かな"暖かさ"。
fin.