第10章 ※◆with はち様(神田)
「あ。生き物じゃなくて…兵器?だったかな……あれはなんて言ったらいいんでしょう…虫?昆虫にも似てて…でも頭から変な蔓が伸びてて…あれ、お尻だったっけ?」
「…なんの話だ」
「上手く説明できません…でもっ凄く怖かったんですが、黒服の人に助けてもらってっ」
「黒服?」
「面白いんですよ!空を飛ぶ炎の大蛇を操ったり、光る剣から青い衝撃波のようなものを出したり…っ」
「待て。なんの話だ」
興奮気味に次々とウリエの口から語られるのは、やはり夢のような話。
取り止めの無い無法地帯な話に、どこから突っ込めばいいのやら。
どうせその場に案内されても、そこにウリエの言った黒服の者や巨人のような生き物は見当たらないのだろう。
「ウリエ。まずはその手袋の話をしろ。それが先だ」
頭を抱えたくはなったが、とにかく優先すべきは謎の男物の手袋。
はっきりとリヴァイが指し示せば、ああ、とウリエは何か思い出したように頷いた。
「リヴァイさん。手を貸してくれますか」
「………」
それは求めている答えではない。
しかしあまりに彼女が期待に満ちた顔で誘うから。
仕方なくほらと差し出せば、手袋を脱いだ両手できゅっと包むように握られた。
「迎えに来てくれてありがとうございます。寒い思い、させてしまいました」
「……これくらい、どうってことない」
手袋に包まれていたウリエの両手は、ほんのりと温かい。
ウリエが傍にいないことに比べれば、凍えることなど。
素直な感情を吐き出せば、ふんわりと彼女の顔に笑みが浮かぶ。