第10章 ※◆with はち様(神田)
パカカッと軽やかな蹄の音を耳にする。
近付く音に向けた視線の先、見えたのは探し求めていた姿。
「あ!リヴァイさんっ!」
向こうもどうやら、その姿に気付いたらしい。
嬉しそうに声を上げるジークリットに跨ったウリエに、同じく馬を足に林の入口へとやって来ていたリヴァイは、零れそうになった溜息を呑み込んだ。
呆れの溜息ではない。
安堵の溜息だ。
「どうしてここに?」
「帰りが遅いから迎えに来た。午後には戻って来いと言っただろうが」
「ごめんなさい。色々あって」
「…だろうな」
元々眼光の鋭いリヴァイの目が、更に鋭さを増して止まったのはウリエの手元。
観察眼の鋭い彼は、易々とウリエから普段は感じられない違和感を見つけ出した。
乗馬用の手袋ではない、自分がやった訳でもない見知らぬ男物の革手袋。
形の良い眉が眉間に皺を寄せる。
「なんだそれは」
「それが聞いて下さい、リヴァイさんっ」
物騒な顔で尋ねるリヴァイとは裏腹に、キラキラと目を輝かせて何かを語り出そうとするウリエ。
その姿には見覚えがあり、リヴァイは更に眉を潜めた。
以前もバタバタと足取り慌ただしく、聞いて下さい!と押し掛けてきたかと思えば、タンスの底にサファイアのチョーカーを落としただとか。
拾おうと手を伸ばして辿り着いたのは知らぬ世界で、キラ・ブルームと名乗る落とし物の可愛らしい妖精に出会っただとか。
あまりにしつこく誘われるものだから、仕方なくウリエと共にタンスの底を見に行けば、なんてことはない。
変わらぬ家具と床が広がっていただけ。
どうせ夢でも見たのだろう。
酷く呆れたリヴァイだったが、彼女があまりにも残念そうに凹むから、それ以上責めるようなことは口にしなかった。
「私、巨人のような巨人とは違う生き物を見たんですっ」
「………」
出た。
と、嫌な予感が的中したことにリヴァイは無言で顔を渋めた。