第10章 ※◆with はち様(神田)
「あーあ…よかったんさ?あれ、雪がユウの為にって気遣ってくれた手袋なのに」
颯爽と駆けるジークリットの背に跨って、木々の向こうへと消えていったウリエを見送る。
溜息混じりに肩を竦めるラビに対し、神田は顔色一つ変えることなく。
「理由が理由だ。これくらいで月城も怒ったりしねぇだろ」
「そーだろうけどさぁ…ユウは乙女心ってもんをわかってねぇなー。そういうんじゃないんだって」
「あ?女と見れば声掛けに行く軟派野郎に説教される筋合いはねぇよ」
「酷っ。確かに声は掛けてるけどさ!乙女心はユウよりわかってるつも」
「帰るぞトマ。事後処理は済んだか」
「ええ、はい」
「って無視!知らねーからなッ雪に怒られても!」
(煩ぇな。そんくらいで怒るような奴じゃねぇよ、あいつは)
きゃんきゃんと煩いラビを邪険にあしらいながら、帰路へと着く。
手袋を外した両手は、冷たい外気に触れて指先から冷えていく。
こうして実感すれば、あの手袋は確かに役立っていたらしい。
教団に帰り着く頃にはすっかり両手は冷え切っているだろう。
だからといって、トレーニングで鍛えた体に支障はないが。
(…それに、)
冷えていく掌を、ついと落とした視界に入れて軽く神田は拳を握りしめた。
(冷えたら、暖めて貰えばいいだけだ)
求める体温は、ひとつだけ。