第10章 ※◆with はち様(神田)
最初に影に気付いたのはウリエ。
「あっ…ジークリット!」
その姿を見た途端、弾けるように駆け出す。
ウリエの姿を目で負った神田とラビが捉えたのは、ジークリットの手綱を引いて来るトマの姿だった。
「ジークリット!よかった、無事だったのね…!」
両手を名一杯広げて駆け寄るウリエに、先程の暴れ馬の姿はどこにもなく。
大人しく大きな頭を下げると、ジークリットは寄り添うようにその胸に顔を寄せた。
ぱさりぱさりと、長い尾が揺れる。
「怪我はない?大丈夫?よかった…!」
頭を抱いて、愛馬の無事に心から歓喜する。
そんなウリエの姿を見ていて、ふと神田は気付いた。
妙な女だと不信感を抱いていたのに、何故か気に掛かる存在だったことに。
(嗚呼、そうか)
言葉は丁寧で当たり障りないが、少し違和感のある他者への態度。
それは可愛がっているのであろう、愛馬の前では全く違うものへと変わる。
心からの素の笑みは人を惹き付けるもの。
なんとなく、似ていると思った。
(あいつに)
いってらっしゃいと笑顔で見送ってくれた彼女の姿が、一瞬ウリエと重なる。
「貴女の馬だったのですね。よかった、主人が見つかって」
「はいっありがとうございます…!」
「いいえ、お礼なんて。私はこの子に連れられるまま来ただけですよ。貴女を見つけたのはこの子自身です。ずっと誰かを探すように歩き回っていたので」
ぺこぺこと何度も頭を下げてくるウリエに、優しく笑顔でトマが首を横に振る。
「おかげで神田殿とも合流できましたし」
「ユウ達と逸れてたらトマとあの馬見つけてさ。あいつが案内してくれたから、オレもここに来られたんさ」
両手を頭の後ろで組みながら、ヘラリと笑ったラビが付け加える。
どうやら今回の任務でここぞという活躍を見せたのは、ジークリットらしい。