第10章 ※◆with はち様(神田)
「おい。怪我は」
「大丈夫です…っごめんなさい、何度も助けられてしまって…」
抱き込んでいたウリエの体を解放して、神田が様子を伺う。
申し訳なさそうに頭を下げるウリエは、どうやらAKUMAからもラビの鉄槌からも被害は受けていないようだった。
「あの、ありがとうございました」
ぴょこんとラビの前に出たウリエが慌てて頭を下げる。
さらりと深緑色の髪を揺らして礼を言う、見慣れない陶器のように透き通った肌の女性。
同じく透き通るエメラルドの宝石のような瞳。
ウリエの姿を目にしたラビの翡翠色の瞳が見開いた。
「ストライクッ!!!」
「!?」
「………」
途端にぽんっとその目はハートに変わり、バキュン!とどこかで何かを撃ち抜く音がする。
いきなりのラビの雄叫びにビクリとウリエが体を震わせれば、またかと神田の眉間に皺が寄った。
美女を見ればすぐにストライクされて惚れ込むラビは、いつものこと。
「おねーさんめっさ美人!ここら辺に住んでんの?名前は?オレ、ラビって言うんさ!礼なんていいからぜひ連絡先を教え」
「うぜぇッ」
がしっとウリエの両手を握るラビの頭に、間髪入れず神田の重い拳がゴン!と落ちる。
「い"…ッ何も急に殴ることないんじゃね…っ」
「任務中に浮付いてんじゃねぇよエロ迷子馬鹿兎が!」
「それならもうヘーキさ、鉄槌で空から見て回ったけど目ぼしいAKUMAは今ので最後…って名前にオプション付け過ぎじゃね」
「エロ迷子馬鹿」
「それもう名称ですらねーから。ただの悪口だから!」
「あ、あの…私は、ウリエといいます」
「! ウリエちゃんて言うんさっ?」
「ってお前も律儀に応えてんじゃねぇよッ」
命を助けてもらったのは本当だ。
そんな恩人に名を名乗らずにいては、失礼に値する。
きちんと受け応えるウリエに、途端にぱっと笑顔を浮かべるラビと、真逆に顔を顰める神田。
静かな林の中で騒ぐ声。
そこに導かれるように、近付く影があった。