第10章 ※◆with はち様(神田)
「クソッ!」
ウリエが見たというAKUMAの生き残りか。
レベル1の卵のような形状をしたAKUMAが、ウリエの目の前で複数の銃砲を向けていた。
六幻を発動する間もなく飛び出した神田が、ウリエへと手を伸ばす。
その手が触れる前に、銃砲の奥底が眩い光を放った。
「"火判"」
それ以上の眩い光を放ったのは、空から。
光というより、それは燃ゆる熱の塊だった。
ゴウッ!と激しい熱音を立てながら蛇のような形を成した炎の塊が、レベル1のAKUMAに衝突する。
「っ…!」
間一髪、ウリエの肩を掴んだ神田が強く体を引き寄せる。
庇うように腕に抱いて背を向けた先で、炎の蛇に食らい付かれたAKUMAが銃砲を放つことなく、一瞬で巨大な炎に包まれた。
ゴウゴウと一層大きな炎に包まれた後は、あっという間の出来事だった。
悲鳴を上げることもなく、真っ黒な灰に変わったAKUMAの残骸がぼろりと地面に崩れ落ちていく。
正に雪の言う通り。
それは特大ライターというよりも、巨大キャンプファイヤーの如く。
「っとぉ。間一髪さー」
空から落ちてきたのは陽気な声。
すたんっと軽やかに白い空から降ってきた体が、雪の絨毯に着地する。
見慣れたオレンジ色の目立つ赤毛。
「怪我ねーさ?ユウ」
己の体より遥かに巨大化させた鉄槌を片手で担ぎ、ヘラリと抜けた笑みを見せてくる。
神田と同じに真っ黒な団服に身を包んだ青年、ラビ。
「テメェどこほっつき歩いてやがった迷子兎が!」
「手厳しいッ」
突然のラビの救援でAKUMAは破壊できたものの、神田の第一声は感謝の言葉などではなく。
ギンッと鋭い眼孔を向けられ思わず反射でラビの両手が上がる。
「ごめんて~。しつけーAKUMAの襲撃に合ってさぁ。応戦してたらいつの間にかユウ達見失ってて。…それよりその子、だいじょぶ?」
しかしよく神田の罵声を喰らっているラビにすれば、もう慣れたもの。
ヘラヘラと抜けた顔で謝罪しながら、眼帯を付けた隻眼が神田の腕の中で庇われたウリエに興味を示した。