第10章 ※◆with はち様(神田)
「あくまとはなんですか?巨人と似た生き物なのでしょうか」
「巨人?何言ってんだ」
「こんなに大きな生き物、私、巨人の他には知りません」
「AKUMAは生物じゃねぇよ。悪性兵器だ」
「…悪性…兵器?」
爛々と興味を示すエメラルドの瞳をAKUMAの亡骸に向けたまま、ウリエの口からは問いが幾つも飛び出す。
面倒臭い、という感情を隠すことなく顔全体に浮かばせると、神田はウリエとは逆に興味なくAKUMAに背を向けた。
「いいから近寄んなって言ってんだろ。そいつは直に砕け散る。毒ガスが散布すんぞ、離れてろ」
「さんぷ…?」
言葉の意味がよくわかっていないらしい。
どこか知識が欠けているようにも見える、不可思議な女。
こんな林の奥にいたのだ、もしかしたら人里とは離れて暮らしているのかもしれない。
他人に興味など惹かれないのに、どこか気に掛かる女性。
そんなウリエにスタスタとAKUMAから足早に離れながらも、ついて来ない気配に仕方なく神田は振り返った。
朦々と上がっているAKUMAの毒ガス。
先程より薄ら赤味が増して見えるのは、濃くなっている証拠だ。
そこへ興味深く顔を近付けているウリエが見えたものだから、つい舌打ちが口の端から零れた。
「チッ…おい、だから離れろって言って─」
朦々と上がる赤い霧状のガス。
その向こうに、ゆらりと揺らぐ影が見えた。
「! 離れろ!」
「え?」
咄嗟に神田が声を張り上げたと同時に、ふっとウリエの頭に掛かる影。
何か、と見上げた先。
じゃこんっと機械が作動するような音が届いて、瞳に映し出されたのは丸い筒。
大きな砲の銃口だった。