第10章 ※◆with はち様(神田)
「…本当に呆気なかったな」
羅列した昆虫のような何十本もの足を仰向けに晒して、倒れ込んでいる白い毛玉の巨大芋虫のようなAKUMA。
カチカチと痙攣するかのように震えていたその足も、今はピクリとも動かない。
六幻によって真っ二つに切断された体の側面から溢れる、真っ赤なAKUMAのオイル。
完全に命尽きたAKUMAの血で白い雪の絨毯を染めていく様に、神田は溜息をついた。
数分で事は終えた、呆気ない勝敗だった。
レベル3が聞いて呆れる。
これではレベル2のAKUMA討伐と然程変わらない。
発動を解いた六幻を鞘に戻していると、背中に気配。
振り向けばまじまじと興味ある瞳でAKUMAの亡骸を見つめる、ウリエがそこにいた。
「近寄んな。AKUMAのオイルは人間には毒だ」
「あくま…?」
じわじわと白い雪に染め浸みこんでいく真っ赤な液体。
蒸気のようなものが上がっているのは、外気の温度に比べてAKUMAの体液が温かいからだけではない。
そこから発生している蒸気は、AKUMAウイルスを含んだガス。
人間にとっては毒ガスともいえるものだ。
「…あくま…」
ぽつり。
呟くウリエの顔が、真っ赤なオイルの血溜りに映し出される。
じっと見つめる。
血のように赤い赤い、あれは───
"アクマで執事ですから"
誰の、瞳?
「知ってんのか。AKUMAのこと」
はっとする。
見つめていた血溜りから顔を上げれば、こちらを伺う神田の姿があった。
ウリエの気配に気に掛かるものを感じ尋ねれば、ふわりと深緑色の髪を彼女は振る。
「いいえ」
はっきりとした声で首を横に。
その動作の際、分厚い防寒着の隙間から真っ青なチョーカーが揺れて見えた。
サファイアだろうか。
なんとなしに、目を引くものだった。