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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)




「………」

「………」

「…おい」

「はい」



問いを止めれば生まれる沈黙。
しかし声を掛ければ間を置かず返事を返される。

妙な女だ、と神田は思った。

こんな人気のない林の中で、雪を見せたいという理由だけで暴れ馬など引き連れて来ようか。
大体何故あんな騒動になっていたのか。



「何があったか知らねぇが、自分が撒いた種だ。躾し直してから外に出すことだな」

「…普段は、とても良い子なんです」



冷たい神田の物言いに、きゅっと胸の前で両手を握り締める。
暴れるジークリットの手綱を握っていた所為か、白い肌は擦れ、皸のような傷跡が薄らと出来ていた。



「それが、空に変な丸いものを見つけたら、急に暴れ出して…」



じっとウリエの言葉に耳を傾けながら、恐らくレベル1のAKUMAのことだろうと神田は悟った。
聞き分けの良い馬が暴れ馬と化してしまったのは、恐らく動物としての勘。
AKUMAを危険物と察知し逃げてきた、といった所だろうか。

ウリエが見たレベル1のAKUMAは、自分達が先程破壊したものか、はたまた新たなAKUMAか。
淡々と冷静に神田が思考を巡らせていた時、ドサリと雪が落ちる音がした。



「ジークリットっ?」



馬が戻ってきたのか。
ぱっと俯いていたウリエの顔が上がる。
音のした方へと振り返った神田は、それを目にしたと同時に目の前のウリエの服に手を伸ばしていた。

パンッ!と鞭が撓るような鋭い音。



「きゃ…!」

「出やがったか」



強く引っ掴んだウリエの胴を易々と担ぎ上げ、後方へと跳ぶ。
さっきまで二人で立っていた周りの木々が、綺麗に断ち切られて斜めへと傾きバキバキと倒れ込む。

林の奥。
白い景色に同化するように現れたのは、真っ白な毛で覆われたずんぐりとした不可思議な生き物だった。
芋虫のような巨体の下には、うぞうぞと蠢くムカデのように並んだ大量の足。
頭なのか尻なのか。
目も何も見当たらない先から伸びた何かが、ひゅんひゅんと素早く揺らめき空気を鳴らしている。
毛玉の隙間から何本も伸びているそれは、鞭のようにしなやかな触手。

一見して地球上のどの動物にも当てはまらない容姿の、謎の生き物。
一瞬で確信に至る。

AKUMAだ。


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