第10章 ※◆with はち様(神田)
「何…なんですか、あれ…?」
「AKUMAだ。俺とお前を攻撃してきたってことは…」
言い掛けた言葉を呑み込んで、神田はじっと担いだウリエを見た。
「?…なんですか?」
「いや」
(こいつは白だ。AKUMAじゃねぇな)
どうやら運悪くAKUMAの群に出会してしまった人間らしい。
「そこらに隠れてろ。出てくるなよ」
「は…はい」
担いでいたウリエの体を下ろして、近くの茂みを指し示す。
AKUMAが何かわかっていない様子だったが、危険物なのは察したのだろう。
大人しく頷くと身を縮ませ、近くの茂みへと飛び込んだ。
ウリエの後ろ姿が消えるのを確認して、すらりと六幻の刃を抜く。
「これで邪魔者はいない。サシで勝負だ」
ひゅんひゅんと空気を唸らせる触手が、見えない速度で揺らぐ。
恐らく先程木々を一度に断ち切ったのも、あの鞭のような触手だろう。
独自の個性的な姿をしたAKUMA。
見た目は明らかにレベル1ではない。
となるとどうやらこのAKUMAが今回の討伐任務の標的らしい。
お互いの武器は鞭と刀。
リーチは圧倒的に相手の方が大きい。
(問題ねぇな)
戦闘の合図は何もなかった。
ヒュオッ!と冷たい空気を切り、突如として突っ込んでくる鞭の刃。
首を横に捻り、真っ直ぐ突っ込んできた鞭の刃を擦れ擦れに避けると、その動作の延長線上で体を傾けた神田は六幻を振るった。
ザンッ
「ウォアアァアアアアアア!!!!!!!」
六幻の刃で斬り捨てられた触手が、ぼとりと神田の足元に落ちる。
蛇のようにうねうねと激しく身悶える触手の残骸に、共鳴するかのようなAKUMAの鈍鳴。
頭か尻か、と思っていた触手を纏う箇所とは真逆の先端がガパリと大きく開いて、剥き出しの歯とうねる舌が見える。
どうやら触手を振っていたのは尻らしい。
「全部叩っ斬りゃいいだけの話だ」
なんとも不格好で気味の悪いAKUMA。
しかしその姿を前に動揺一つすることなく、神田は足で軽く蹴り上げ触手の残骸を視界から退かすと、チャキリと六幻を構え直した。
見た目は異様で不気味だが、所詮見た目だけの子供騙し。
実力は大したことなさそうだ。