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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)




「ぁうッ」

「っ!」



どさ、とぶつかる肌。
どうにか放り上げられた女の体を抱き止めれば、勢い余って雪の上に二人共に倒れ込んだ。
雪の深々と積もる林の中であったのが幸いした。
痛みはどこにもない。



「っは……ぁ、あれ…?」

「…おい」

「え?きゃあっ?」



柔らかい雪を下敷きにしたまま、神田は自分に乗り上げている女を見上げた。
暴れ馬から放り出された衝撃はあったが、乗り上げている体は軽い。



「退け」

「すみません!」



一言告げれば、ぱっと立ち上がり後退る。
見た所、女にも怪我はないらしい。

周りの雪景色に似て白い肌。
黒味のある深緑色のセミロングの髪。
エメラルドのような翠色の瞳。
恐らく成人女性だろうが、見た目は少し幼く見える。

ざっと女の容姿を確認した神田は、同じに起き上がり雪を払いながら警戒の目を向けた。



「大変!ジークリット!」



そんな神田に気を止める前に、はっと慌てた様子で女が辺りを見渡す。
呼ぶ名は恐らく、先程の暴れ馬のことだろう。
飼い主を放り投げた馬は冷静さを欠けていたのか、どこかへ走り去ってしまったようで見当たらない。



「…大変…」



消えてしまった馬に、女の表情が陰る。
唖然と白い世界を見渡す、陶器のように整った横顔。
それを眼下に神田は再び六幻の柄へと静かに手を伸ばした。



「お前、名は」

「あ…助けて頂き、ありがとうございました。ウリエ・フェンベルグといいます」

「なんでここを彷徨いてた」

「ジークリットに雪を見せてあげたくて…」

「さっきの馬か」

「…はい」



問えば要点をきちんと返してくる。
見た所、AKUMAではなさそうだ。



(レベル1じゃねぇな)



しかしレベルが上がればAKUMAの知性も上がる。
それだけでこのウリエと名乗った女が、人の皮を被ったAKUMAではない証明にはならない。
整った造形の顔に、幾分作られたもののような胡散臭さを感じれば、尚の事。

凡そ若い女に向けるような目ではない視線で、神田はウリエを捉えた。


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