第10章 ※◆with はち様(神田)
"暖まったら、次は誰かに渡してください"
前回の任務帰りに繋いだ、ほっこりと温かい小さな手。
緩く握り返せば、言い出したのは自分だろうに少し照れた様子でそんなことを早口に述べてきた。
脳裏に鮮明に焼き付いている、雪の顔。
(…これの所為だな)
任務へとスイッチを切り替えたはずなのに、方舟を使い任務地に赴いてもふと思い出してしまう雪のこと。
しっくりと手に馴染み六幻の扱いを邪魔しない、この手袋の所為だと決め付けた。
肌触りの良い裏起毛が、外の凍えるような冷気を遮断する。
成程、確かにこれは温かい。
雪のほこほことした小さな手に包まれた感覚と、似ている気がする。
すっぽりと片手で握り込める小さな手なのに、伝わる温度で逆にじんわりと包まれている気になる。
暖かい。
とは、このことだろうか。
「──で、」
見下ろす手袋。
その手に乗る六幻の柄を握り直し、抜いていた刃をチンと鞘に戻す。
顔を上げた先には、周りの雪景色と同じ白いマント姿のトマ。
「馬鹿兎はどこ行った」
「逸れてしまったようですね…」
「………」
ピキリ、と神田の額に青筋が浮かぶ。
「AKUMAに奇襲されては仕方ないです、捜しましょうっ」
無言で怒りを露わにする神田に、慌ててラビを庇うようにトマがフォローを入れる。
移動手段の方舟で降り立った異国の地。
真っ白な雪景色と共に神田達を待っていたのは、大群で訪れたAKUMAだった。
すぐさま戦闘態勢に入り、ラビと共に破壊しながら進んだ林の奥。
AKUMAの群を一掃して一息ついた所で、あの映えるオレンジ頭が視界から消えていることに気付いた。
「いや、いい。破壊したのは全部レベル1のAKUMAだ。肝心のホシがまだ出てきちゃいない」
トマの提案を蹴って、鋭い視線を辺りに巡らす。
ピリピリとした緊張感は、まだこの場の空気に漂っている。
今回のAKUMA討伐の一番の標的は、目撃例のあるレベル3のAKUMA。
まだその姿は目にしていない。
恐らく近くに潜んでいるのだろう。