第10章 ※◆with はち様(神田)
「神田?」
じっと手袋を見下ろしたままでいれば、反応のない神田に怪訝な声で雪が呼ぶ。
顔を上げれば、見上げてくる黒い眼と重なった。
「…要らない?」
黙ったままの神田に、そう感じたのか。
気まずそうに聞いてくる雪の顔は、あの時と同じだった。
"神様"と比喩した時の、少しだけ困ったような顔。
そんな雪をじっと見下ろして、やがて神田は溜息一つ。
「あって困るもんじゃねぇし。貰っとく」
言葉通り。
無くて困るものではないが、あって困るものでもない。
手早く身に付ければ、どこでどう調達してきたのか、しっくりと手に馴染んだ。
思わず片手を握ったり開いたり具合を確かめる神田に、雪は頬を緩ませ微笑んだ。
「よかった。任務、いってらっしゃい」
あの雨露香る夜に、小さな手を握った時と同じ。
ほっこりと温まる気配。
「…いってくる」
それは掌か。
それとも、心か。