第10章 ※◆with はち様(神田)
「任務地、結構寒い所だって聞いたから。神田、手、冷たいでしょ。悴んじゃう」
「…俺は遠足にでも行く子供か」
「違うよ」
まるで母親のような雪の態度に、つい神田の眉がピクリと引き攣る。
しかし否定した雪の思いは別にあるらしく、あっさりと首を横に振った。
「AKUMA討伐なんでしょ。悴んで六幻扱う時に手元が狂ったらどうするの。ラビの鉄槌とは違うんだから、神田は手先大事にしてなきゃ駄目だよ」
「おぉーい。それってオレの槌は雑扱いでもOKってことさー?酷くね」
「まさか。六幻に比べてラビの鉄槌は技が大掛かりで広範囲でしょ。複数AKUMA相手にする時は凄く心強いよ」
「…なんか良いように丸め込まれてる気が…」
「それとラビには"火判"があるしね。特大ライター。いや、もうキャンプファイヤー」
「ってやっぱし!」
グッと親指を立てる雪に、間髪入れずラビのツッコミが入る。
しかし二人の会話は、神田の耳には入ってこない。
手渡された黒い革手袋をじっと見下ろしたまま。
実質、雪の言う問題はないだろう。
第二使徒の体であっても、寒さや暑さは当たり前に感じる。
しかし気温の変化くらいで体を動かせないようでは、教団の戦闘要員失格だ。
その為に毎日、時間がある時は鍛錬に身を染めていた。
毎朝のトレーニングで六幻を握り、箸やペンより身近に手にしている。
自らの手足のようなイノセンスを、寒さで操り損ねることなどない。