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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)




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そんな彼女の座るベンチ。ベンチというにはあまりにもボロだが、その上にはちょうど木が生い茂り、雨粒は彼女に落ちる事はない。

「なに?」

彼女が過敏に反応したのは、草葉が揺れる音。
風で揺れ動いた音ではない。
じっと、じっと見つめる。

「かような所に雌が一人」

鈴のようだと表現できそうなほど透き通っても高くもないが、重たげで楽しげな声。

「だ、だれ!」
「退くな、濡れてしまう」
「誰なの」

ベンチから半分腰を浮かせたまま固まる女は、大きく重そうな荷物を抱き抱え、すぐにでも逃げ出せる体制をとっている。
草葉の向こうの声の主が、やれやれと言わんばかりにため息をつきながら姿を現した。

「き、きつね?」
「まったくその通り、きつねじゃ。黒狐の天狐と申す。ここらは私の縄張りでな?……妙な雰囲気の雌が踏み込んだとなれば、見に来ない訳にも行かない」

こんな雨の中のぅ。と随分古風な話し方をするのは、黒い狐。尾先だけが白い。
雨をはじく艶やかな黒い毛皮と、軽やかな足取り。
ぶるりとその場で雨粒を振り払ってから、彼女の側へ、ベンチへと飛び乗った。

「私は名乗った」
「……つ、月城 雪」
「雪。雪は好きじゃ、この黒い私が映える季節。見事な冬毛もまた見ものだぞ?」
「…イノセンスか何かなの?」

いのせんす?と聞き覚えのない言葉へ反応を返す黒狐の天狐。
雪と名乗った女は、ベンチに落ち着いた天狐を見つめながら、再びベンチに腰を降ろした。

「AKUMAに対抗する」
「あぁあぁ、止め止め。そんな話にはとんと興味が無い」
「でも、あなたがもしイノセンスなら、私たちはそれを回収しなければならないの」
「私は私。北斗七星の化身黒狐の天狐。それ以上でもそれ以下でもない。お前はなんと名乗る?人間の月城雪?それとも、その妙な雰囲気の方で名乗るのか?」

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