第10章 ※◆with はち様(神田)
微妙なニュアンスの天狐の言葉。
雪はそれに反することなくただ黙る。
ぎゅうと握られた拳に、天狐が何の前触れもなくその鼻を付けた。
「人はなぜ毛を持たぬのか……あぁ、そうか。毛皮があれば肌を寄せ合い温まる事など出来ないからか?」
「は、肌を寄せ合い……」
「男の匂いがすると言っている」
図星のようだ。
雪は固まり、徐々にその頬を染め上げ、真っ赤になったかと思ったら表情を無くし暗くなり、その後青くなる。
その様子を見ていた天狐はくつくつと笑い、寒いんだろう。とハッキリ言った。
「傍に寄るぞ。連れが来るまでなら温めてやろう」
「だ、大丈夫です」
「それじゃあなにか?このまま子猫のように震えている雌を、見て見ぬふりし、あぁ、あの子猫はまだ震えているのだろうか。と、罪悪感を抱かせるのが主の策か?」
「あ……いえ……その」
「黙って暖まればいい。暖まったのなら、次に渡せばよい」
次?雪が首をかしげている隙に、天狐はその膝に遠慮なく上がり、膝の上に置かれた雪の手ごと腹の下に隠してしまった。
「次って?」
「……少しは自分の頭で考える事をせんか」
ちらりと視線を上げた天狐は、剥き出しになっている雪の首元へ、湿度に抗いふんわりと膨らみを保っている尾を滑り込ませ、巻き付けた。
「すみません……」
「いずれわかる。分からなければお前はまだ未熟だと言う事。誰かがそれを教えてくれることに気が付いていないだけ」
「む、むずかしい」
「先に言った通りだ。暖まったのなら次に渡せばよい」
「……今は、暖まればいいの?」
「そう」
ただ、ただ。時間が過ぎていく。
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