• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)





微妙なニュアンスの天狐の言葉。
雪はそれに反することなくただ黙る。

ぎゅうと握られた拳に、天狐が何の前触れもなくその鼻を付けた。

「人はなぜ毛を持たぬのか……あぁ、そうか。毛皮があれば肌を寄せ合い温まる事など出来ないからか?」
「は、肌を寄せ合い……」
「男の匂いがすると言っている」

図星のようだ。
雪は固まり、徐々にその頬を染め上げ、真っ赤になったかと思ったら表情を無くし暗くなり、その後青くなる。
その様子を見ていた天狐はくつくつと笑い、寒いんだろう。とハッキリ言った。

「傍に寄るぞ。連れが来るまでなら温めてやろう」
「だ、大丈夫です」
「それじゃあなにか?このまま子猫のように震えている雌を、見て見ぬふりし、あぁ、あの子猫はまだ震えているのだろうか。と、罪悪感を抱かせるのが主の策か?」
「あ……いえ……その」
「黙って暖まればいい。暖まったのなら、次に渡せばよい」

次?雪が首をかしげている隙に、天狐はその膝に遠慮なく上がり、膝の上に置かれた雪の手ごと腹の下に隠してしまった。

「次って?」
「……少しは自分の頭で考える事をせんか」

ちらりと視線を上げた天狐は、剥き出しになっている雪の首元へ、湿度に抗いふんわりと膨らみを保っている尾を滑り込ませ、巻き付けた。

「すみません……」
「いずれわかる。分からなければお前はまだ未熟だと言う事。誰かがそれを教えてくれることに気が付いていないだけ」
「む、むずかしい」
「先に言った通りだ。暖まったのなら次に渡せばよい」
「……今は、暖まればいいの?」
「そう」

ただ、ただ。時間が過ぎていく。

~~~
/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp