第9章 ◆はなむけの詞を君に(神田)
「…やっぱり、どっちでもいいな」
「え?」
「子供。無事に生まれてきてくれるなら…どっちでもいい」
男でも女でも。
未知のものだけれど、雪との間に生まれた命なら、迷いなく愛を注げられる。
「そうだね」
「ちゃんと育ってくれるなら」
「…そうだね」
目を瞑ったままの神田の手を、指を絡めて優しく握る。
「私ね、生まれてくる子には普通の生活をさせてあげたいな。ご飯を毎日ちゃんと食べさせて。寝る前に絵本とか読んであげたりして」
それは雪には無縁だった生活。
「毎年誕生日に、ケーキを焼いて祝ってあげるの。ユウのケークサレとは違う、ちゃんとした甘いケーキね」
想像するだけで、自然と笑みが零れ落ちる。
愛を沢山注いであげたい。
雪や神田が受けられなかった分まで、たくさん、たくさん。
「学校にも通わせて、将来は自分がなりたいものを目指して欲しいな。自分の道を、自分で歩けるように」
そしていつかは。
「そうして、守りたい誰かができるまで…守ってあげていたい」
自分と同じように、大切な誰かを見つけることができたら。
「……なんて。私も親バカかな?」
なんだか気恥ずかしくなって、ヘラリと砕けた笑みで会話を閉める。
肩に乗る神田の顔を見れば、微動だにしていない。
「…寝ちゃった?」
そっと呼びかける。
返答はない。
どうやら本当に眠ってしまったらしい。