第9章 ◆はなむけの詞を君に(神田)
タケノコの掻揚げや初がつおや春キャベツのサラダ。
温かいスープも添えておかずを口にしながら、神田の握った少し大きなおにぎりを頬張る。
生まれてくる新しい命の未来を予想しながら、他愛ない話に花を咲かせた。
「顔は絶対ユウ似がいいと思う。ビケイ、バンザイ」
「美形言うな棒読みで。俺はお前似の方がいい。できれば女。………男で」
「どっちそれ」
「男」
「女の子だと駄目なの?」
「女だと色々…心配だろ」
「なに心配って」
「………将来とか」
「え…まさか……ぶふッ」
「オイ。なんで笑った」
「や、まさかユウが…親バカになりそうな予感…っ」
「笑うな。指差すな。怒るぞ」
「や、普通のことだよ…っうん…っ」
「肩震わせて耐えながら言うんじゃねぇ」
昔は暴君だ暴君だと思っていた彼が、子供相手に世話焼く姿など。
想像できなかったことが、今では容易く予想できるようになった。
爆笑はせずともぷるぷると笑いを耐えて震える雪に、不快な顔で舌打ち一つ。
それでも手は上げることなく、神田は手持ち無沙汰に頭を掻いた。
「ったく…馬鹿にしやがって。お前似の娘なら放っておけなくなるだろ」
「えー。それは嬉しいけど、少し妬けるなぁ」
「ならお前似の男にしろ」
「私に性別選択機能なんてないから。そこは楽しみに待ってて下さい」
くすくすと未だ笑い続けていれば、ひゅるりと強い風が首を掠める。
肌寒さを感じて身を竦めれば、神田が催促するように、とんと自分の膝を叩いた。
「ん」
来い、と呼ばれている声。
頬を緩ませて足の間に座れば、すっぽりと上着と一緒に背中から包まれる。
「あったかいね」
「雪の体温が高いからな」
「ユウもあったかいよ」
新しい命を宿した雪の体は、以前よりもっとほっこりと体温が増した。
柔らかく温かいその体を抱きしめていれば、心地良さに誘われる。
「……」
「ユウ?」
上着で包み込まれたまま、肩に乗る神田の顔。
少し身を捩れば、長い睫毛を伏せている目元が見えた。
「眠い?」
「…少し」
ぽかぽかと桜の木々の隙間から差し込む木漏れ日。
暖かい日差しと、温かく柔らかい体温。
心地の良い、穏やかな刻(とき)。