第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「──あ」
「なぁに? この声…」
優しい風に乗って微かに舞い込んできた、聞き覚えのある悲鳴。
それを耳に、廊下でミランダと任務の話をしていた雪は、ついと顔を上げた。
見上げた窓の先には、真っ青な晴天。
心地良い天気にはそぐわない悲鳴は、よく知った彼の声。
(これは…あれだな)
前に一度だけ見たことがある、ティエドールと神田の師弟関係の有り様。
昔は神田の暴挙に失礼極まりないとティエドールを心配していたが、その光景を見てから雪の思いは変わった。
どんなに神田が暴君っぷりを発揮して師にも手を上げようとも、所詮師は師、そして弟子は弟子。
ティエドールが本気で怒りを見せれば、神田だって敵わないだろう。
(少しばかりずれたお仕置きだけど)
なんともティエドールらしい、愛の溢れた鞭。
それが逆に神田の背筋を凍らせていることを、ティエドールは確信しているのか否か。
真実は闇の中。
ただ一つ言えることは、
「なんだかんだ、元帥って凄い人だよね」
「…? なんの話? 雪ちゃん」
色んな意味で、敵わない人なのだろう。
「ううん。平和だなぁって」
「そうねぇ…良いお天気よね」
軽く首を横に振って、にこりと目の前のミランダに笑いかける。
そんな雪に、ミランダもまたつられて頬を緩めた。